高齢者がベルソムラ20mgを服用したらどうなる?

背景

高齢の女性からベルソムラ錠15mgを服用しても眠れないから用量を増やしてもらえないかという相談があった。むろん、保険適用は15mgだが、もしベルソムラ錠20mgを高齢者が服用したらどうなるのか気になり調べてみた。

考察

ベルソムラの審査報告書を参考に考察してみた
ベルソムラ®(一般名suvorexant)は不眠症の治療に使用される。申請者であるMSD株式会社は当初、1錠あたり15mg、20mg、30mg、40mgの審査申請を行っていた。
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30mg,40mgの高用量でも審査申請していたことに驚き😮
審査過程において、本剤の高用量投与に伴う潜在的なリスク、特に高齢者におけるリスクについて懸念が示された。これらのリスクはオレキシン受容体拮抗作用に起因するものであり、高用量群(30mg)では一部の患者さんに副作用が生じることが示唆された。低用量群(15mg)と高用量群(30mg)の差は、有益性という点では臨床的に重要ではないと判断された。
ベルソムラの用法・用量は、臨床試験結果に基づいて評価された。第Ⅲ相試験では、高齢者では30mg/日、非高齢者では40mg/日の高用量が使用され、高齢者では15mg/日、非高齢者では20mg/日の低用量が検討された。その目的は、両年齢層で同様の曝露レベルを達成することであった。

FDAの見解

米国食品医薬品局(FDA)は独自の検討を行い、不眠症に対するベルソムラ®の開始用量は10mg/日とし、10mg/日で十分な忍容性があるが効果がない場合は15mg/日または20mg/日への増量の可能性があると結論付けた。FDAは、30mg/日または40mg/日への増量は安全であるとは考えなかった。

申請者(MSD)の見解

FDAの懸念を受け、申請者は日本での用法・用量を再検討し、低用量(非高齢者:20mg/日、高齢者:15mg/日)から開始し、必要に応じて増量(非高齢者 40 mg/日、高齢者 30 mg/日)することを決定した。
以上より申請者は、FDA からの指摘事項を踏まえて再検討した結果、本邦における用法・用量としては、低用量(非高齢者 20 mg/日、高齢者 15 mg/日)を開始用量及び推奨用量とし、入眠又は睡眠維持困難の症状が改善されず、傾眠などの翌日の持越し効果が認められない患者には、高用量(非高齢者 40 mg/日、高齢者 30 mg/日)に増量可能とすることが適切と考えることを説明した。
参考資料:ベルソムラ審査報告書P84

医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解

医薬品医療機器総合機構(PMDA)もレビューを行い、ベルソムラの10mg/日のベネフィットは不明であり、低用量(非高齢者20mg/日、高齢者15mg/日)の安全性は許容範囲と判断された。PMDAは、高用量(非高齢者40mg/日、高齢者30mg/日)のベネフィットが関連するリスクを上回ると結論づけることは困難であると判断した。その結果、高用量は承認用量範囲に含めないことを推奨した。
全体として、ベルソムラの適切な投与量については、FDAが低用量からの投与を推奨し、PMDAが高用量でのリスクに懸念を示しているなど、意見が分かれている。最終的な投与量の決定は、有効性と安全性に関する臨床試験の結果に基づいて行われる必要がある。最終的な投与量は以下のとおりに決定した。
[用法・用量] 通常、成人にはスボレキサントとして 1 日 1 回 20 mg を就寝直前に経口投与する。ただし、高齢者には 1 日 1 回 15 mg を就寝直前に経口投与する。

結論

申請過程や臨床試験において65歳以上の高齢者にベルソムラ錠30mgを使用していることからベルソムラ錠20mgを投与してもリスクは低い。しかし潜在的な副作用には留意する必要があるので、まずは睡眠衛生指導を再度徹底するのが優先だろう。